家庭菜園を持っている家族のリストづくり
3月、マンガテンキャンプ①を訪問すると、キャンプリーダーのピーターさんが深刻な顔つきで「水、食料、医療、どれも足りなくて困っている」と話しかけてきました。給水と医療は、これまで支援を行っていた団体が活動を終了して引き上げてしまっています。
その一方で、国の北部で12月から1月にかけて起きた戦闘で家を追われた人たちがトラックに乗せられてジュバに到着、このキャンプとその周辺で避難生活を始めたそうです。NGOが調査を行ったようですが、具体的な支援はまだ何もありません。
そんなわけで、ピーターさんは私たちに「給水や食料の支援をしてくれないか」と尋ねてきたわけです。しかし今回はそうした支援を計画しているわけではなく、予算もありません。正直にそう伝えて、前回、昨年11月に訪問した時の女性たちとの話し合いに従って、家庭菜園づくりのための農具や灌漑用具を支援する、と説明しました。
相当ガッカリされるかと思いましたが、
「そうか。畑をやれば自分たちで食料を作れるのだから、それはいいな」
ふむふむ、という感じ。意外に肯定的に受け止めてくれました。
「で、何人を支援する予定なのか?」
とピーターさん。
「人数がわかれば、こちらで活動の参加者をリストアップするぞ」
と言ってくれています。
「いえいえ、それには及びません。人数は決まっていないのです。これまでにどんなに少しでも菜園を始めている人と、これから始める意欲があって菜園のスペースを自分のテントの周りに持っている人、それをひとりひとり確かめて支援をします」
「ひとりひとり確かめるって、どうやるんだ?」
「キャンプの中をぐるっと全部回ります」
ピーターさんに頼んで、キャンプ内の世話役的な女性を何人か呼んでもらいました。その人たちと、ピーターさん、私たちJVCスタッフが連れ立ってキャンプの西側から歩き始めます。
↑リストに記入するJVCスタッフ
私たちの姿を見て、次々にテントの中から人が飛び出してきます。
「ここの菜園を耕しているのは、誰?」
青いビニールシートのテントの裏、乾季の今は土がむきだしの場所を、世話役の女性が指さしました。
「そこは私の場所。去年は落花生を作ったのよ」
名前を尋ねて、リストに記入していきます。
すると、赤ん坊を抱えてそばで見ていた女性が、
「その隣の場所は誰も耕していないから、私が今年耕そうと思っているの」
聞くと、去年は出産があり菜園をやっていなかったけれど、今年はオクラやモロヘイヤを育てたいとのこと。
こうして、女性たちの名前が次々に記入されていきます。
こうして歩いてみると、キャンプ内はところかまわず、テントの間やフェンス際の空き地など、あちこちに菜園がつくられているのが分かりました。とはいっても、この季節のジュバは雨が降らない乾季。菜園は雨水に頼っているので、野菜は何もありません。オクラやナスの畑は茎が残っていますが、落花生などの畑は土埃が舞っています。
2時間ほどでキャンプを隅から隅まで歩き回り、リストに記入された名前は、合計89名。ほとんどは女性ですが、中には男性もいます。およそ8割がこれまでも菜園を持っていた人たち、2割ほどが新たに始めたい人たちでしょうか。
↑自分の菜園に立って示す女性たち
ここキャンプ①には100張を超えるテントがあり、その数は増え続けています。人口は他のキャンプとの出入りもあるので把握するのは難しいのですが、数百人が暮らしています。89名が菜園を作っているということは、ほとんどのテントで、家族の誰かが周囲の小さなスペースで畑づくりをしているのでしょう。
何を支援するのか?
キャンプをひと回りした後、ピーターさんや女性たちと話し合いをしました。
まず、農具について尋ねると
「何も持っていないので、去年はほかの人からクワを借りて畑を耕した。自分のクワがあればもっと耕せる」
「枯草や雑草を集めて畑の掃除をするのに、熊手(クマデ)がないとやりにくい」
といった声があがりました。予定通り、三種類の農具(クワ、ショベル、クマデ)を支援することを決めました。
そして、灌漑用具は
「雨が降らない時に水やりするのに、ジョウロがあれば水を節約できる」
との意見から、ジョウロの支援が決まりました。水汲みに使うポリタンクは、みな自分で持っていると見えて支援の必要はないようです。さらに、 「ポリタンクで水を運んだり、収穫物を運んだりするのに、※注(1)手押し車がいる」
という話になったところで、意見が分かれました。
※注(1)(※手押し車:日本では工事現場などで見かける、別名「猫車」)
「手押し車は価格も高いし、一人ひとりに支援することはできない。何人かが1台を共有して、交代で使って欲しい」
と私がお願いをすると、女性たちは
「それでは取り合いになってしまう」
「1人に1台でないなら、支援してもらわなくてよい」
これは意外な反応でした。支援しなくてもよい、とまで言うとは思いませんでした。
ピーターさんが
「いやいや、そんなこと言わないで、何人かで一緒に使えばいいじゃないか」
と言ってとりなすのですが、女性たちの意見は変わりません。
ピーターさんが懸命に説得して、最後は10台を支援して共同利用することで話は決着。
どうして「共同利用」に抵抗感が強いのか、腑に落ちない面もありましたが、その本当の理由は後になって分かります。
翌日、サンプルとして農具一式を購入し、キャンプの女性たちに見せて確認しました。
「これよ、これ。これがあれば、どんどん耕せる」
サンプルを手にした年配の女性は歓声を上げ、その場でクワを振りながら踊り出したのでびっくり。
↑物資の積み下ろし作業を行うキャンプの女性たち
菜園のリストに名前が載った89人に加えて、「自分は菜園を作っているのに名簿に名前がない」と後からアピールしてくる人も考慮して、100セットの農具とジョウロ、そして10台の手押し車をジュバ市内で調達しました。トラックに載せてキャンプに運びます。トラックが到着すると女性たちが集まってきて、積み下ろしを始めました。いつの間にか、みんな歌を歌っています。一緒に作業をするときには、自然に歌が出てくるようです。
農具の配布については次回ご紹介いたします。